概要
- AIでバウムクーヘンを製造する菓子職人の技術を再現するオーブンの開発
- 画像認識でAIが焼成の具合を判断し自動で焼き上げる
- 将来的にはオーブンの遠隔操作も視野に入れる
DXの動機・背景
株式会社ユーハイムは1909年に中国でドイツ人菓子職人カール・ユーハイムが創業したことを起源とする製菓会社だ。現在の代表が南アフリカでスラム街の子どもたちに出会ったことをきっかけに「地球の裏側にお菓子を届ける」ことを実現化プロジェクトがはじまった。
多くのお菓子を届けるには量産化が不可欠。一方で同社は2020年から、日持ちのために用いられる添加物を排除する方針を打ち出していたことから、離れた土地に職人の技術をどう提供するかが課題となった。その検討の中で、機械によって遠隔地で菓子職人の技を再現し、お菓子を作ることが模索され、AIの活用に至った。
経過・対応・取組内容
バウムクーヘン専用のAIオーブン「THEO」が開発された。職人が焼くバウムクーヘンの焼き具合を各層ごとに画像センサーで解析し、AIに学習させることで、職人の技術を自動で再現。自動の焼成のみならずオーブンの遠隔操作も実験中で、将来的には離れた菓子店から「THEO」でバウムクーヘンを焼いたり、消費者が遠隔で焼成を体験したりすることも視野に入れている。開発当初はAIの採用に対して職人側にネガティブな反応も見られたが、自身の焼き方の“癖”が数値で可視化されることで、かえって職人の技術向上に役立つと理解され、新しい技術が前向きに受け入れられるようになったという。
得られた成果
5年の歳月を経て完成したAIオーブン「THEO」は2021年から実証実験を開始した。名古屋市に開業する施設「バウムハウス」でのショップ開設を皮切りに、フードトラックでの販売や全国の施設への設置が進んでいる。
編集部コメント
職人による手作業の製造工程をAIにより自動化する事例です。菓子作りのように職人一人ひとりの技術によって支えられてきた分野では、職人とAI推進者の協力関係を築くことがプロジェクトの分水嶺と言えます。
なお本事例の発想の元となった、低所得貧困層に向けた社会的課題を解決するビジネスはBOP(Base of the Economic Pyramid)ビジネスと呼ばれ、世界経済に貢献できる持続可能なビジネスとして注目を集めています。