概要
- サケの定置網漁は漁獲高の予想が難しく、漁師の勘と経験に頼っていた
- 漁獲高の事前予測に必要なビッグデータを収集し、漁師の知見を可視化
- 精度7割強の事前予測が可能となり、漁業の効率化を実現
DXの動機・背景
電気通信事業を行うKDDI株式会社は、Society 5.0 for SDGsをテーマに、地方創生の取り組みをデジタル技術でサポートしている。地方の課題や価値を自治体や企業と共有し、データドリブンで可視化する。
宮城県東松島市のサケの定置網漁は、漁獲高が予想できず、収入が不安定になる上、燃料代がかさんでしまう問題があった。漁業は、天候や漁師の「勘と経験」によって左右されやすい産業だ。
そこで同社は産学官連携の事業、スマート漁業の一環として、デジタル技術を活用した漁獲高の事前予測に取り組んだ。
経過・対応・取組内容
漁獲高の事前予測には、漁師の知見を可視化できるためのビッグデータの収集が不可欠だ。
同社は2種類の「スマートブイ」を開発した。ひとつは天候や海上、海中の状況のデータを収集するセンサーを搭載したブイ、もうひとつはカメラを搭載したブイ。両方とも同社の通信ネットワークに接続可能なLTEモジュールとGPSを搭載しており、遠隔でデータを収集できる。
漁師は実際の漁獲量の情報を、スマートフォンやタブレット経由で報告。こうして蓄積したデータを分析し、漁師の知見を可視化した。作成した漁獲高予測モデルにより、表示アプリケーションで漁師が情報を確認できるようになった。
得られた成果
ビッグデータに基づく漁獲高の事前予測は、予測精度7割強を実現した。事前予測を可能にする漁業の効率化は、人件費や燃料費のコスト削減が見込める。また、未経験者や若者が参加しやすい環境となり、後継者問題に揺れる漁業の就労機会拡大に繋げることが可能だ。
さらに今後は、事前予測を市場と共有し、需要と供給をバランス化するシステムの構築や、ビッグデータを活用した産地直送の小売事業をモデル化する検証を実施。漁業が抱える様々な問題をデジタル化で解決しようとしている。
編集部コメント
本事例ではビッグデータが、経験と勘頼みだった漁業のあり方を変えるきっかけを作りました。通信ネットワーク技術を導入したブイの開発は、携帯電話事業者としての強みを異なる産業である漁業に活用したDX推進事例です。自社の持つ資産・技術を、他業界と組み合わせて新しい価値を作る視点は新しい産業の姿を作る着眼点のひとつです。