日本の製造業界の課題に挑む
プラットフォームの構築:前編
商社だからこその使命
株式会社山善
- 株式会社山善
- 営業本部 営業企画部
ゲンバト推進室 リーダー - 秋村洋輔 様
工作機械・産業機器といった生産財や住設機器・家庭用機器などの消費財を取り扱う大手専門商社の山善様。 同社にとって数十年ぶりとなる新事業「ゲンバト」の立ち上げにディマージシェアが携わっている。 今回はゲンバトのプロジェクトリーダーである秋村氏にお話を伺い、同社との取り組みを前編と後編とに分けて紹介する。
商社の役割に立ち返ってみて我々が取り組むことに意義があると思いました。
1947年、大空襲で焼け野原となった大阪の街で生活復旧品を取り扱う商店「山善工具製販株式会社」として産声をあげた山善。その後取り扱う商品を拡大し、現在はものづくり企業を支える工作機械や産業機器などの生産財と、住設機器・家庭用機器などの消費財を取り扱い、売上高は5000億円以上となる。 家電メーカー「YAMAZEN」としてのイメージも強いかもしれないが、売上のうち6割以上を占めるのが生産財関連事業。国内で取り扱う工作機械のシェアはトップクラスで、生産財の仕入先となるメーカーが約3000社、販売先となる製造業者が約5000社と日本のものづくりを支える一大企業である。
2024年、この生産財領域の新たな事業として製造業向けプラットフォーム「ゲンバト」がリリースされた。このサービスリリースにあたりディマージシェアがプロジェクトの一翼を担った。
「製造現場にちょうどいいデジタルを」
ゲンバトとは「製造現場にちょうどいいデジタルを」というスローガンを掲げる製造業向けの複合型プラットフォームである。 ゲンバトは、製造現場の営業活動を支援するマッチングサービスや業務効率化を支援するサービスなど、あわせて14のサービス(2024年10月時点)から構成されている。 各サービスの利用料は導入費無料・月額定額のサブスクリプション型となっており、最低限の予算で手軽に導入できることが特徴である。
中小製造業者が抱える課題―労働生産性
製造業はGDPの約2割を占める日本の重要な基幹産業のひとつである。
かつてものづくり大国とも称された日本だが、日本の製造業の労働生産性はOECDに加盟する主要 34か国中18位というデータ (※)もあり、各国と比較して日本の労働生産性が低いことがうかがえる。経済成長や持続可能な発展のためには労働生産性の改善が不可欠であり、少子高齢化社会の日本において就業人口そのものが減少し続けることを考えるとより目下の急務である。
(※)公益財団法人日本生産性本部 「労働生産性の国際比較 2023」
秋村氏にとってもこの問題は見過ごせないものであった。 秋村氏は、ゲンバトプロジェクト立ち上げ以前は自動車メーカー向けの製造装置の提案・営業業務に従事していた。 顧客から同業者の廃業の噂を知らされることが続くなど、労働人口減少の影響を受け、廃業を余儀なくされる中小製造業者が多いことに危機感を抱いたという。
秋村氏はデジタル活用による業務効率化で人手不足をフォローしていくことが製造業界の課題解決の突破口の一つになると考えた。しかしそこでまた新たな問題を発見する。それはデジタル活用のハードルが高いという中小製造業者特有の問題である。 中小製造業者にはデジタル化に対応できる人材や十分な投資予算が無い。また、製造業向けの業務効率化ツールやシステムが市場には多くあるが、導入費用が高く手が伸びなかったり、高いコストをかけて導入しても多機能が故に使いこなせなかったり、既製品の導入やその利活用が中小製造業者には難しい状況もあった。
中小製造業者が抱える課題―販路拡大
中小製造業者が抱える課題は労働生産性だけではない。 同社の調査によると、製造業者が解決したいと答えた課題の一つに「営業力不足」があることがわかった。技術的な課題があり製品開発のパートナーを探したい企業がいる一方で、高い技術力を保有していてもその技術を求める企業との接点が少ない中小製造業者もいるなど、取引先の開拓に苦心している企業が多いのだ。 システムや人材に投資して労働生産性の向上を目指すためには、販路拡大による増収・増益こそが肝要であり、販路拡大の支援も必要であると秋村氏は感じていた。
山善としての支援の限界に対するもどかしさ
秋村氏は製造業界の盛り上がりのためにも中小製造業者の事業継続につながる支援をしたいと思う一方で、山善として支援できることの限界にもどかしさも感じていた。
商社である同社のビジネスは極言すれば、産業機械を仕入れて販売するというもので、顧客への「販売」がゴールになっている。つまりこれは顧客目線で見ると機械の「導入支援」である。 顧客のビジネスにとって最も重要なことは、導入した機械をどう活用しどのように利益に結びつけるか。機械の導入後こそが顧客のビジネスの成功の要なのだが、既存の事業の範囲ではここをフォローすることができないのだ。
「お客様のビジネスのゴールを考えると、山善として支援できる範囲をもっと拡大していくべきだと思っていました。」
既存の支援の枠組みにとらわれず、業界課題を解決したい。 そんな想いがゲンバト誕生のきっかけとなった。
商社が業界課題に取り組む意義
市場には製造業会向けの業務効率化支援・営業支援サービスは複数ある。商社である山善があえて取り組む意義はどこにあるのか、秋村氏に伺った。
「商社というと、ものを仕入れて売る役割と思われますが、誰かと誰かを結び付ける・問題と解決策を結び付ける、ということが商社としての役割の本質だと思うんです。そこに立ち返るとゲンバトは必然的にやるべき取り組みだと思っています。」
全国国内の事業所と海外現地法人合わせて約120の拠点をもち、得意先である販売店を通じて製造業者と日々密なやり取りができる山善だからこそ、製造業者が抱える課題を汲み取ることができ、課題解決につなげることができる。
同社にとって新事業の立ち上げは数十年ぶり。これまでとは一線を画した新しい風を吹き込む一大プロジェクトとなった。
後編へ続く