3万人が使うそろばん教室の
システムリニューアルに参画
設計と開発のサイクルを迅速に回す
アジャイル志向の成長型開発モデル


株式会社イシド様/
株式会社オニオン新聞社様
へのインタビュー

- 株式会社イシド
- 代表取締役社長
- 沼田 紀代美 様

- 株式会社イシド
- 情報システム部
副部長 - 山本 様

- 株式会社オニオン新聞社
- Growth支援事業本部
クリエイティブ開発部
事業プロデューサー - 髙橋 秀征 様
株式会社イシドは、国内外の約300教室で「いしど式」そろばん教室を運営している。約3万人の生徒と、その保護者に提供している通塾管理・コミュニケーションアプリ『そろネット』および、教室の先生向けの生徒管理システム『モア』は、イシド社と株式会社オニオン新聞社が企画・開発し、長年にわたり運用してきたシステムだ。
今回、UI・デザインおよびシステムとしてのパフォーマンスの向上のため、オニオン新聞社との連携により、当社ディマージシェアが技術パートナーとして参画した。オニオン新聞社が全体の企画設計やUI/UXおよび企画の設計を含めた全体プロデュースを行い、ディマージシェアはシステム基盤の再構築とパフォーマンス改善を担当した。
現場の実態に合わせて必要な開発を、
走りながら柔軟に行いたいと思っています。
こうした進め方でも親身にご対応いただけているので、非常にありがたいです。
株式会社イシドのデジタル技術活用
株式会社イシドは、そろばんというアナログな印象の強い教育産業で、デジタル技術の活用によって注目を集めている企業だ。1973年に千葉県白井市で開塾してから50年を超える歴史を持ち、いまや国内各地のみならず海外にも教室を展開する、そろばん業界の大手企業だ。少子化や計算機の普及が進む中にありながら、現在の生徒数は3万人近くに達するまでに拡大している。イシド社のこうした成長は、長年にわたる大胆なDX戦略が支えている。
1990年代後半からインターネットを活用しはじめたイシド社は、2000年にWeb上で学習できるそろばん教材『インターネットそろばん学校』を開設し、2015年には株式会社オニオン新聞社のプロデュースのもと、クラウド型生徒管理システム『モア』や、生徒や保護者向けのアプリ『そろネット』を本格稼働させるなど、デジタル技術を積極的に活用している。2020年にはオンラインで授業が受けられる『いしど式オンライン』がスタートし、近年では生成AIの実用可能性についても模索しているという。

こうしたDXの取り組みは注目を集め、2025年1月には、千葉県内で地域経済・社会に貢献した企業を表彰する「千葉のちから」令和6年度中小企業・小規模企業表彰を受賞し、千葉県から全国へとビジネスを広げるビジョンの象徴として高く評価されている。
代表取締役社長の沼田氏は、DXが事業競争力の一翼を担っていると語る。
「そろばんという古いイメージが強い業界で、先進技術を駆使したDXに力を入れているのが、当社と他の教室との大きな違いです。教室の運営者として、先生には働きやすさと業務効率を、保護者には安心・安全を提供するために、デジタル技術を活用しています。」

イシド社は現在、AIによる答案の採点補助にも取り組んでおり、先進的な技術の活用にも積極的だ。これら一連のDX戦略は、単なる業務効率化にとどまらず、全国・海外展開のための要である。
「フランチャイズといっても、当社ではスーパーバイザーを配置していません。それを支えているのが、生徒・保護者向けアプリ『そろネット』と、生徒管理システム『モア』という、遠隔で管理できる仕組みです。」
『そろネット』には、教室内のIC端末と連動した出席確認、連絡帳、検定情報の確認、教室からのお知らせなど、通塾や保護者との円滑なコミュニケーションに役立つ多彩な機能が搭載されている。
一方『モア』は教室を管理・運営するためのシステムだ。生徒情報や入退室記録の管理、『そろネット』で閲覧できる連絡帳の作成、出席や検定に連動するポイントのグッズ交換手続きなどを行える。このようなDX戦略に支えられて、今やイシド社は全国だけでなく、世界各地に事業を拡大している。
『そろネット』と『モア』のリニューアル
今回、イシド社とオニオン新聞社が『そろネット』および『モア』のリニューアルを行うにあたり、当社ディマージシェアが技術パートナーとして参画した。目的は、UI・デザインの改修とシステムとしてのパフォーマンスの向上によって、より使いやすく、安定したサービスを実現することだ。オニオン新聞社がプロジェクト全体の統括のもと、導線設計や命名規則などのUI/UX設計を行い、ディマージシェアはフロントへの実装とバックエンドの刷新を担当する体制だ。
『そろネット』と『モア』は、リリースから5年以上が経過しており、現在までにいくつかの機能が追加されていた。そのため、それら後発の機能を含めたUI/UXの再設計が必要な時期が来ていた。また、当初の想定を大きく超える生徒・保護者・講師が利用するようになり、システムのパフォーマンスを向上させる必要に及んでいた。ITシステム課の山本氏に、リニューアル前の状況を振り返っていただいた。

「開発当初は、1万人規模の利用を想定していました。事業が想像以上に成長したことで、リニューアル直前には利用者が2万人を大きく超えるまでに達して、利用者数の増加に伴い、より高いパフォーマンスと拡張性が求められる状況になっていました。」
システムのキャパシティを懸念していた矢先、ある台風の日に、本部からのお知らせ通知を見た生徒・保護者が一斉にアクセスしたことで、一時的にアクセスが集中し、システムが不安定になる事象が発生した。緊急対応として、随時サーバー再起動により復旧を行ったが、安定運用のための抜本的な対策が必要と判断。これを契機として、抜本的な改修の必要性が明確になった。
「この時は、その都度サーバーを再起動してもらうことで乗り切りましたが、サービスを止められない、パフォーマンスを向上させなければならないと強く思いました。かねがね懸念してはいましたが、不測の事態を引き起こさないために、以前から検討していたUI/UXも含めた改修を決断しました。」
システム基盤の再設計に際しては、今後の成長を見据えて体制を強化するため、ディマージシェアが技術専任パートナーとして参画した。オニオン新聞社で策定していた素案をもとに協議を重ね、セキュリティやメンテナンス性を考慮したフレームワークへの移行に加え、アクセス負荷を分散し、大量のアクセスに耐えうるサーバー構成へと刷新することで、システムの安定性を確保した。
リニューアル後のUI・デザインについて、沼田氏は次のように語る。 「UIの評価は難しいですが、一般的にユーザーからはポジティブな反応よりネガティブな反応のほうが届きやすいものです。リニューアル直後は戸惑いの声もありましたが、最近はネガティブなお問い合わせがないことから、現在のUIに満足いただけていると認識しています。」
また、システムのパフォーマンスについては、安定性の向上がはっきりと感じられるという。
「明らかに稼働は安定しました。ディマージシェアさんは本当に細かいところまで監視してくれていて、我々が気づかないようなパフォーマンスのわずかな低下も報告してくれるのでありがたいです。例えば、先日、コアタイムに一斉にお知らせ配信をした際にも、少しだけ画面表示が遅くなったとご報告いただきました。とはいえ、それに関する生徒・保護者の方からの問い合わせもなく、言われるまで気付かない程度だったのですが……。不具合とは呼べないレベルでも報告してくれ、改善しますとおっしゃっていただけるので、とてもありがたいです。」
ディマージシェアの参画を振り返って
「オニオン新聞社としては、ユーザー数の大幅な増加を鑑みて、より高い信頼性・運用性を求める段階に達したと考えました。総合プロデュースを行う当社としては、システムを任せられる企業と組んでインフラを強化することが、今後よりサービスを発展させることにつながると判断し、今回ディマージシェアさんをアサインしました。」

当初、オニオン新聞社を通じてディマージシェアが参画するにあたり、開発スタイルの相性がイシド社にとって重要だった。
「最初は当社の求める開発スタイルで進められるのか、慎重に進め方を擦り合わせていました。」
イシド社のシステム開発は、沼田氏が「ビジネスを推進するために、現場の実態に即した機能を、走りながら柔軟に開発していきたい」と語るように、アジャイル志向で進められている。
オニオン新聞社が参画する以前に、イシド社が別の開発会社に依頼したプロジェクトでは、一度作成された設計書を改善する余地がなかったことに課題を感じたという。
「実際の動作や利用感に応じて、柔軟に改善を重ねながら最適な形を模索しています。今のようにフィードバックを迅速に反映できるような開発体制が、当社にとっては適していますね。」
こうしたアジャイル的な方針を受け入れられるかが、イシド社の関心事だった。
「結果的には非常にスムーズに連携できました。専門性の高い会社だと感じていましたが、実際には非常に柔軟かつ丁寧な対応をしていただきました。」

ディマージシェアが参画した当初は、イシド社とオニオン新聞社で打ち合わせを行い、その後オニオン新聞社がディマージシェアと協議する形を取っていた。プロジェクトの進行に伴い、詳細な技術の説明をする必要が出たため、円滑かつ迅速なコミュニケーションを図るべく、3社合同の会議体に変更するようにディマージシェアから申し出た。
ときには沼田氏が出張先のポーランドからオンライン参加したり、山本氏が研修先の奄美大島から参加したりすることもあったという。
「3社合同の会議体になり、何よりもコミュニケーションがスムーズになりました。そろばん教室ならではの要望もありますし、直接ご説明できるのはとても助かります。オンラインでの打ち合わせを重ねて、今ではかなり正直に要望をお伝えできる関係になったと思っています。密にやり取りをしているので、今回のインタビューを通じて、初めて名刺交換をしていなかったことに気付いたほどで……。」
こうした経緯を経て、現在ではディマージシェアに対しても率直な要望を伝えられる関係ができている。イシド社からの要望は、優先順位を設定したうえで開発期間内での技術的な実現性を検討し、イシド社・オニオン新聞社と協議を重ねながら、実装の可否を決定することで、可能な限り要望を汲み取るよう努めた。
また、オニオン新聞社からは「イシド社からの要望や、UI/UX観点の要件に対して、実装した場合の技術的な影響を広く想定して返答をいただけるので、プロジェクト全体を統括している側として、とてもやりやすいです。より良い開発体制のために参画していただいた判断は適切だったと思います」と、ご評価いただいた。

イシド社の展望とデジタル活用
デジタル技術の活用を成長の鍵と考えるイシド社は、AIの導入も模索している。その第一歩として、生徒の手書き答案を読み取り、採点を効率化する仕組みを開発中だ。
沼田氏は「AIという技術の存在感は大きいですね。何がどう変わるのか、模索を続けています。だからこそ、できるだけ早く試そうと考えています。」と、意欲を見せた。
現在は運営業務の効率化を目的としたAI導入に取り組んでいるが、将来的には学習記録データを活用し、成績と練習量の関連性を定量的に示すことも可能ではないかと考えている。
「例えば『週に1回しか来ない3年目の生徒よりも、2年目でも週に2回来ている生徒の方が、上達が早く、理解度も2倍以上違う』という経験則が、現場の先生たちにはあるんです。しかし、それを保護者に納得してもらう形で説明するのは容易ではありません。そうすると、生徒も忙しいので、結局は通塾の頻度が増えず、なかなか成績が上がらないこともあります。どれだけ練習すれば、どれだけ成績が上がるのかを、数字を示せるようになれば、生徒や保護者とのより良いコミュニケーションにつながるはずです。」

現在、全国に約300教室を展開するイシド社は、将来的にさらなる拡大を目指している。
「今後数年で教室数を500まで拡大したいと考えています。そのためにシステムがどうあるべきかを考えると、まず現場の先生が負担している事務作業を改善する必要があります。さらに、生徒数が10万人規模に達しても、安定してサービスを提供できるシステムにしなければなりません。インフラ状況が日本と異なる海外でも同じ対応していく必要がありますし、まだまだやるべきことは山積しています。」
ビジネスに必要なシステムは、最初に描いた設計が絶対的に正しいとは限らない。イシド社のように、ビジネスの成長にあわせて試行錯誤を重ねながら、本当に必要なシステムを構築する企業の取り組みを、ディマージシェアは今後も支援していきたい。

